めくらぶどうと虹    ≪   ノブドウ   ≫

崖やほりには、まばゆい銀のすすきの穂が、いちめん風に波立っています。
その城あとのまん中に、小さな四角山があって、上のやぶには、めくらぶどうの実が、虹のように熟ていました。

もずが、まるで音譜をばらばらにしてふりまいたように飛んで来て、みんな一度に、銀のすすきの穂にとまりました。
めくらぶどうは感激して、すきとおった深い息をつき葉から雫くをぽたぽたこぼしました。



(1)
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つめたい風がふっと通って、大きな虹が、明るい夢の橋のようにやさしく空にあらわれました。
そこでめくらぶどうの青じろい樹液は、はげしくはげしく波うちました。

そうです。今日こそ、ただの一言でも、虹とことばをかわしたい、丘の上の小さなめくらぶどうの木が、よるのそらに燃える青いほのおよりも、もっと強い、もっとかなしいおもいを、はるかの美しい虹に捧ささげると、ただこれだけを伝えたい、
ああ、それからならば、それからならば、実や葉が風にちぎられて、あの明るいつめたいまっ白の冬の眠りにはいっても、あるいはそのまま枯れてしまってもいいのでした。



(2)
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「虹さん。どうか、一寸こっちを見て下さい。」

やさしい虹は、うっとり西の碧いそらをながめていた大きな碧い瞳ひとみを、めくらぶどうに向けました。
「何かご用でいらっしゃいますか。・・・」

めくらぶどうは、まるでぶなの木の葉のようにプリプリふるえて、輝いて、いきがせわしくて思うように物が云いえませんでした。
「どうか私のうやまいを受けとって下さい。」



(3)
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虹は大きくといきをつき・・そして云いました。
「うやまいを受けることは、あなたもおなじです。なぜそんなに陰気な顔をなさるのですか。」

「私はもう死んでもいいのです。・・・私の命なんか、なんでもないんです。あなたが、もし、もっと立派におなりになる為ためなら、私なんか、百ぺんでも死にます。」

「あら、あなたこそそんなにお立派ではありませんか。あなたは、たとえば、消えることのない虹です。変らない私です。
私などはそれはまことにたよりないのです。ほんの十分か十五分のいのちです。ただ三秒のときさえあります。ところがあなたにかがやく七色はいつまでも変りません。」

「いいえ、変ります。変ります。私の実の光なんか、もうすぐ風に持って行かれます。雪にうずまって白くなってしまいます。枯草の中で腐ってしまいます。」



(4)
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虹は思わず微笑いました。

「ええ、そうです。本とうはどんなものでも変らないものはないのです。
この眼の前の、美しい丘や野原も、みな一秒ずつけずられたりくずれたりしています。
けれども、もしも、まことのちからが、これらの中にあらわれるときは、すべてのおとろえるもの、しわむもの、さだめないもの、はかないもの、みなかぎりないいのちです。
わたくしでさえ、ただ三秒ひらめくときも、半時空にかかるときもいつもおんなじよろこびです。」

「私を教えて下さい。私を連れて行って下さい。私はどんなことでもいたします。」

「いいえ私はどこへも行きません。いつでもあなたのことを考えています。
すべてまことのひかりのなかに、いっしょにすむ人は、いつでもいっしょに行くのです。
いつまでもほろびるということはありません。

けれども、あなたは、もう私を見ないでしょう。
お日様があまり遠くなりました。
もずが飛び立ちます。私はあなたにお別れしなければなりません。」



(5)
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めくらぶどうは高く叫びました。
「虹さん。私をつれて行って下さい。どこへも行かないで下さい。」

虹はかすかにわらったようでしたが・・・

そして、今はもう、すっかり消えました。
空は銀色の光を増し、あまり、もずがやかましいので、ひばりも仕方なく、その空へのぼって、少しばかり調子はずれの歌をうたいました。
                                                 
                                                
                                                                    

 童話  「めくらぶどうと虹」  宮沢賢治

              



(6)
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めくらぶどうは、ノブドウ(野葡萄)の地方名だそうです。
この童話は読んだことがなかったのですが、サイトで見つけて感銘を受け、抜粋いたしました。

石垣の草むらの中にばら蒔かれた天然の宝石~!
一株に様々な色をちりばめて、不思議な魅力があります。


花言葉は、 慈悲、人間愛




                                                    
by soyokaze-1020 | 2012-11-07 10:00 | 夢の中 | Comments(14)
Commented by nonohana28 at 2012-11-07 21:21
こんばんは~♪
私も先日、見たこともないような虹を見たとき
もう直ぐしたら消えて見えなくなる虹を見て一生懸命
何か話していました・・・・・そのときを思い出します。
心に響きました。
消えない虹さながらに色を揃えたノブドウですね。
わたしもノブドウを撮ったことがありましたが
この童話を知っていれば・・・・・。
もっと違った思いを込めて撮れていたでしょうね。
とても綺麗なノブドウのお写真。素晴らしいです。
soyokazeさん ありがとうございました。‥
Commented by ふくやぎ at 2012-11-07 21:54 x
でもでも、、、今は言ってはいけない言葉なのですよね。。
そうやって消えていく物語も多いのでしょう。
Commented by asitano_kaze at 2012-11-07 22:10
めくらぶどう・・・いい名前ですよねぇ。
差別用語といわれるかもしれませんが、そうした解釈は本質をそこなうような気がします。
宮沢賢治の「めくらぶどうと虹」もういちど読み直しました。
澄み渡った賢治の物語の世界、引き込まれます。
トップ、とくにいいですねぇ。
ロマンの世界が垣間見えているような感じがしました。
Commented by shizenkaze at 2012-11-07 22:50
今日の文章を読みながら写真を見ていましたがいつものsoyokazeさんの言葉表記とは違うので初めは不思議な感覚になりました・・・・・
途中で気がつきましたが『メクラブドウ(花巻などの方言)』が虹と会話する宮沢賢治の童話(これは子供より大人に読んで貰いたいですね)でしたね・・・・・
ノブドウの実の姿が目の悪い人の目に似ているから『メクラブドウ』と言われるようですが他に『トンボの目玉』とも言われる実です
どちらも『目』に関係深くて最近特に目が弱って来た私には素敵な話と感じました・・・・・^^

2.4の写真いいですね^^
Commented by deep_breath38 at 2012-11-07 22:59 x
こんばんは。
ノブドウかわいいですよね~。
こちらではあまり見かけないので見せて頂けてうれしいです~。
めくらぶどうという名前も味ですね。
(全盲の友人がいますが、目のご不自由な方と言われるとかえって不自然に感じるそうです。「だって俺、めくらだぜ~」とおっしゃっておられます)
2,3,4,6枚目が素敵です~(^^)。
Commented by m-kotsubu at 2012-11-07 23:19
こんばんは♪
宮沢賢治は、昔ほとんど読みました。
なので、すぐにわかりましたが、
めくらぶどうがノブドウのことだとは知りませんでした。
美しい絵が童話とぴったりですね_! ^^
Commented by hemi-kame at 2012-11-08 10:42
この物語は知りませんでした。
宮沢賢治の物語を読むと“あぁ~、詩人だなぁ。”といつも思います。
昔あった変わり玉飴を枝に配置したような色どりが渋く懐かしいです。
1,2枚目、好みです。
Commented by soyokaze-1020 at 2012-11-08 23:47
nonohana28さん
夕焼けの中の虹、美しかったですねぇ。
「めくらぶどうと虹」は、調べていて出会ったお話しで、撮った後でした。
来季はもっと思いを込めて撮れればいいと・・・!
忘れていなければ~! なのですが・・・。
ご丁寧なコメント、いつも有難うございます。

Commented by soyokaze-1020 at 2012-11-08 23:47
ふくやぎさん
はい、認識しております。
賢治の童話として、読んで頂ければと・・・。
世の中が複雑になり、生き難くなって来ましたね。
良い方向に進んでいるのでしょうねぇ。
そうあって欲しいと・・・?
コメント、有難うございます。

Commented by soyokaze-1020 at 2012-11-08 23:47
asitano_kazeさん
宮沢賢治の作品は、黙読や声を出して読むより、一字ずつ言葉をなぞりますと
いっそう感慨深いものを感じました。
物語の奥に秘めた心の動きに、熱いものが込みあげてきます。
トップ、有難うございます。

Commented by soyokaze-1020 at 2012-11-08 23:48
長い文章を読んで頂き、感謝です。
童話には様々な教訓が潜んでいますね。
それをどのように解釈するかは人それぞれでしょうけれど・・・?
私も、心の眼力は大切にしなければと~!?
2、4、有難うございます。

Commented by soyokaze-1020 at 2012-11-08 23:48
deep_breath38さん
大都会では整備が行き届いて、草薮などが少ないので小ねぇ。
「めくらぶどう」という言葉は今回初めて知りました。
ご友人はフランクで明るい方なのですね。良いご友人をお持ちですね。
2、3、4、6枚目、有難うございます。

Commented by soyokaze-1020 at 2012-11-08 23:48
m-kotsubuさん
さすがkotsubuさんですね。
きっと文学少女だったであろうと、ブログの写真や添えられている文章から感じていました。
今回、初めてこの童話を知り、惹かれました。
コメント、有難うございます。

Commented by soyokaze-1020 at 2012-11-08 23:49
hemi-kameさん
大正10年前に書かれた作品だそうです。
すっかり読書から離れた生活をしておりますが、
もう一度、本と向き合ってみたいと思いました。(ただ、目と気力が・・^^)
1、2枚目、有難うございます。

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